[1157]構造的賃上げとは

 

 2023春闘で政府も経団連も「構造的賃上げ」という言い方をしますが、わかりにくいと思います。

 昨年11月連合芳野会長も出席した「新しい資本主義実現会議」で岸田首相は次にように言いました。

 「労働者に成長性のある産業への転職の機会を与える労働移動の円滑化。そのための学び直しであるリスキリング。これらを背景とした構造的賃金引き上げの三つの課題に同時に取り組みます」

 また、昨年12月加藤厚生労働大臣全国商工団体連合会に寄せた要請文で次のように言っています。(商工会によるまとめ)

「物価上昇に負けない継続的な賃上げを強力に促進する」とともに、「賃上げと労働移動の円滑化、人への投資という三つの課題の一体的改革を進め、賃上げが、高いスキルの人材を惹きつけ、企業の生産性を向上させ、更なる賃上げを生むという好循環を動かしていくことで、「構造的な賃上げ」の実現を目指す」との内容を盛り込んだ「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を本年10月28日に閣議決定いたしました。

 以上、全国商工団体連合会のホームページに掲載された加藤厚生労働大臣の要請です。

 端的に言えば、政府•経団連は、持続的に賃上げを実施するための前提条件は労働生産性を向上させることにあるというのです。労働移動というのは企業内の場合も企業間の場合もひっくるめられて言われているようです。いずれにせよリスキリングについてこられない労働者は解雇•配置転換されてしまい、路頭に迷う人も出るでしょう。移動させれた労働者を雇用する経営者は賃金をジョブ別の職務給制によって下げます。

 

 労働者はデジタル技術を身につけ労働生産性を高めれば、すなわち単位時間あたりより多くの生産物を生産すれば、より多くの剰余価値を生産します。労働生産性が高まれば、生産される商品の価値(商品=労働市場で買われた生産手段の価値が生産物に移転した部分と、労賃に当たる部分、及び剰余価値の和)は生産過程にコンピューターを導入する以前と比べて大きくなります。

 生産された商品としての諸生産物の価値構成は次のように表されます。

W=c+v+m

c∶商品市場で購入された生産諸手段の価値が生産物に移転した部分(不変資本部分)

v∶労働市場で購入された労働力の価値に該当する部分(可変資本部分)

m∶剰余価値部分

v+mは生きた労働が創造した価値部分です。

 剰余価値部分mと前もって支払った賃金に該当する部分vとの比、m/vを剰余価値率または搾取率と言います。労働生産性を高めるということは搾取率を上げるということです。商品を売った資本家の儲けは大きくなりまます。だから不断に生産性を上げよというのです。

 労働者はデジタル技術を学び直すリスキリングを行い、生産過程の技術化=デジタル化による労働生産性の不断の向上に寄与すること、それによって賃金引き上げの余地がつくられ賃上げしていくという「好循環」を実現することを構造的賃上げと言いたいのでしょう。

 景気の好循環の手段として賃上げを活用するという政府•経団連の「構造的賃上げ」には私は反対です。労働者はますます搾取を強化され疲弊し、多くの労働者が解雇されます。

 われわれはこの物価高の中で生活のために賃金を大幅に一律に上げることを要求するのです。