[1276]ダム破壊の記事について

 カホフカ水力発電所のダムの爆破をどちらがやったのか未だにわからないなかで、10日の毎日新聞が不思議な記事を掲載しています。

 ダム「決壊」事件でゼレンスキー大統領から岸田首相に電話協議が持ちかけられ、9日に約30分話したそうです。

 毎日新聞の記事を引用します。

「岸田首相はロシアによるウクライナ侵攻で『多くの市民が犠牲となり、発電所を含む民間施設に被害が生じていることは断じて正当化できず、強く非難する』と改めて表明』。日本政府関係者によると、ダム決壊の被害に対する支援を『しっかり行っていく』とも述べたという。」

 この文は岸田首相がカホフカ発電所のダムの決壊はロシアの攻撃によるものだと断言したとはいっていません。「ロシアのウクライナ侵攻」で生じた被害の一つとして一般的に述べているという報道の仕方です。そしてウクライナ国民にお見舞いと連帯を表明し、流域住民に対して国際機関を通じて500万ドル規模の緊急人道支援を実施すると表明したと伝えています。

 カホフカ発電所ダム破壊事件はロシア、ウクライナの双方が相手の仕業だと言っており、今なお真相は明らかではありません。毎日新聞のこの記事でも、誰がなぜどのようにダムを破壊したのかに関して具体的には明らかにしていません。そしてゼレンスキーも電話では破壊行為そのものにふれてはいないのです。

 記事を引用します。

「ゼレンスキー氏は、これまでの支援も含めて謝意を示した。併せて、ダム決壊の影響や、ウクライナの首都キーウ(キエフ)などに『ロシアからミサイルやドローンによる激しい攻撃が続いている』など、戦況について説明した。」

 ここで、ゼレンスキーはカホフカのダム決壊の影響にはふれていますが、ロシア軍によるものだと明言していません。

 毎日新聞はゼレンスキーが7日のビデオメッセージで「『国際社会による明確で迅速な対応が必要だ』と支援を呼びかけていた。」とし、松野官房長官の記者会見の内容を紹介しています。

「我が国や欧米諸国は、ロシアによる侵略がなければ今回の事態は起きなかった旨を指摘し、ロシアによる侵略停止とウクライナからの撤退を求めている」

 松野官房長官はダム決壊という事態が誰によってなぜ引き起こされたのかということには言及せず、「ロシアによる侵略がなければ今回の事態が起きなかった」と言っています。こう言ってしまえば何が起きてもロシアの侵攻のせいだとなります。

 私が冒頭で不思議な文だと言ったのは、ダム破壊をロシアの仕業だと言ってないにもかかわらず、記事を読む人をロシアによる破壊であるという判断に誘導するという意図を感じるからなのです。

 松野官房長官のレトリックは評論家がよく使います。発生したある事件を誰がいつどこでどのようにと分析すべきときにロシアの侵攻がなければ起きなかったと言ってしまえば思考は深まりません。特定の現実を「ロシアの侵攻」一般から天下り的に解釈する思考法です。

 米軍による広島・長崎への原爆投下は日本軍の真珠湾攻撃がなければ起きなかったという論理と似ています。