[1426](寄稿)医療あれこれ(その96)−2 「人口減少」について

ペンギンドクターより

その2

 

 次は「人口減少」についてです。本の紹介です。こちらも次回ちょっと詳しい内容に触れるつもりです。
 ◍大西広『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』(講談社+α新書、2023年9月20日第1刷発行)
 大西広は1956年生まれ。1980年京都大学経済学部卒業、1985年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。1989年京都大学経済学博士。1985年立命館大学経済学部助教授、1991年より京都大学大学院経済学研究科助教授、同教授を歴任。2012年より慶應義塾大学経済学部教授。2022年3月31日定年退職、同年慶應義塾大学名誉教授。世界政治経済学会副会長。主著に『マルクス経済学(第3版)』(慶應義塾大学出版会)、他にマルクス経済学や中国問題に関する著書多数。
 帯のコピーを記します。

 人間の数が減ればどういうことになるこか、どういう打撃をこうむるのかについて、私たちは永らく無関心でいましたが、人口減はその深刻さを認識させつつあります。最近は政府でさえ「人間への投資」を主張するようになっています。しかし、日本社会の基本は全然その方向に進んでいません。実質賃金は30年近くも減少した上、2022年以降の物価上昇でさらに大きな切り下げが進行しています。政府が「少子化対策」と称しているものを確認しても、それらで人口減が解決するとはとても思えません。これはこの問題が相当大きな日本の構造転換を必要とし、それに手を出せないことから来ている反応と考えざるを得ません。何より今の少子化は、人々が望んでもたらしているのではない。子供をつくろうとしてもできない状態に労働者がおかれているからこそ起きているのです。   
(「まえがき」より抜粋)

 著者大西広氏の略歴よりおわかりのような彼はマルクス経済学者です。マルクス経済学者としては神奈川大学経済学部教授だった的場昭弘氏(1952年生まれ)が多くの著書がありますが、この大西広という人の本は初めて読みました。
 人口減少については、私は20年以上前から気になっていて、多くの本を読んでいます。藤正巌・古川俊之『ウェルカム・人口減少社会』(文春新書、2000年10月20日第1刷発行)は人口減少をむしろ歓迎する本です。地球全体を考えればこれはむしろ望ましいことでしょう。しかし、日本の現状をみれば、人口減少は決して喜べるものではなく、状況は危機的です。家族社会学の視点からは中央大学文学部教授の山田昌弘氏(1957年生まれ)の著書が沢山あります。私の読んだものだけですが、表題を列挙します。『家族難民 中流下流――二極化する日本人の老後』『希望格差社会「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』『結婚不要社会』『少子社会日本――もう一つの格差のゆくえ』『新型格差社会』ですが、要は若い人が未来に希望が持てない、経済的に結婚し子供をもてる社会が望めないということを山田氏は述べています。
 そういう日本の社会を構造的に変革するには、マルクスに戻るべきだと大西氏は言っています。つまり、今の資本主義が続く限り、日本の人口減少はとどまることなく日本人は消滅すると言っています。同感です。山田昌弘氏の議論からも当然そういう結論が出てきますが、ソ連崩壊という現実から、あえて資本主義の本質に迫ることを躊躇せざるを得ないというのが多くの社会学者の現状でしょう。この問題については次回とします。
 年をとると、3時間以上、集中して文章を書くのは不可能になりました。

つづく