[1453](寄稿)医療あれこれ(その97)−2 人口減少について2

ペンギンドクターより

その2 

 次に前回一部述べた大西広を登場させます。略歴は前回送信したので省略します。

大西広『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』(講談社+α新書、2023年9月20日第1刷発行)。コピーは帯のそれは繰返しになりますが、再録します。さらに裏表紙のコピーを追加します。

 

 人間の数が減ればどういうことになるのか、どういう打撃をこうむるのかについて、私たちは永らく無関心でいましたが、人口減はその深刻さを認識させつつあります。最近は政府でさえ「人間への投資」を主張するようになっています。しかし、日本社会の基本は全然その方向に進んでいません。実質賃金は30年近くも減少した上、2022年以降の物価上昇でさらに大きな切り下げが進行しています。政府が「少子化対策」と称しているものを確認しても、それらで人口減が解決するとはとても思えません。これはこの問題が相当大きな日本の構造転換を必要とし、それに手を出せないことから来ている反応と考えざるを得ません。何より今の少子化は、人々が望んでもたらしているのではない、子供をつくろうとしてもできない状態に労働者がおかれているからこそ起きているのです。 (「まえがき」より抜粋)

 

「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義

◎経済学は少子化問題をどのように論じているか

◎貧困者をつくらなければいけないのが資本主義

◎「ヒトの軽視」が生んだ人口減

民族主義マルクス主義との接点

人口論の焦点は歴史的にも社会格差

ジェンダー差別は「生命の再生産」を阻害する

◎教育の無償化は人口政策

新自由主義が根強い理由

◎外国人労働依存の負のループ

◎企業行動への強制介入も必要に

 

◍この本を読んでみて、マルクス資本論』と日本の少子化・人口減少を結びつけた著者の発想を卓抜だと思いました。今の資本主義では人口減少を食い止めることは不可能だと私も思います。とは言っても、マルクス主義に基づく社会になれば日本人の人口がただちに増加するということになるはずもありません。しかし、ある水準で平衡状態になってほしいと私は思います。この本でも述べていますが、人手不足を移民で補うというのは、資本主義の矛盾を植民地支配で解消しようとした「帝国主義」の考え方と共通性があるように思います。ではどうすればいいか、マルクスの著作すなわち『資本論』の内容から著者はいろいろな論点を抽出しています。私自身は的場昭広『超訳資本論』を読みましたが、大部の『資本論』は書庫にあるものの直接読んではいません。いわゆる「マルクス主義」は種々の問題があって崩壊したのですが、マルクスが述べたことには正しいことが多々あると私も思っています。斎藤幸平『ゼロからの「資本論」』(NHK出版新書、2023年1月10日第1刷発行)も広く読まれているように、ソ連崩壊から30年余が過ぎて徐々にマルクスの再評価が出てきているように思います。日本はむしろその再評価が遅いのに比較して、欧米ではかなりアクティブであるようです。

 

 最後に人口問題についてもう一冊紹介しておきます。大西広の主張をぶちこわしにするかもしれませんが。

 

▼原俊彦『サピエンス減少――縮減する未来の課題を探る』(岩波新書、2023年3月17日第1刷発行)。著者は1953年東京都生まれ。人口学者。早稲田大学政治経済学部卒。フライブルク大学博士(Ph.D)。(財)エネルギー総合工学研究所、北海道東海大学札幌市立大学を経て札幌市立大学名誉教授。日本人口学会理事、国立社会保障・人口問題研究所研究評価委員などを歴任。表紙裏と帯のコピーを記します。

 

 有史以来、増加しつづけてきた人類はいま、人類史的な転換点を迎えている。パンデミックや世界戦争による一時的な減少や停滞はあったにせよ、人口増を前提にした政治と経済、文化、社会システムは再構築を迫られている。もはや不可避の未来である世界の人口減少の“最突端”に位置する日本から、サピエンスの未来を考察する。

 

 本書は、このような世界人口の増加と国内人口の減少という二律背反的状況をどう理解すればよいのかという素朴な疑問や、現在の世界が直面する危機的状況は、人類社会の発展が「成長の限界」に達し、いよいよ世界の終わりが近づいているのでは、という重苦しい不安に対し、人口学から何がいえるのかを答えようとするものである。 (「序」より)

 

◍要するに、今はサブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)の人口急増がありますが、ほとんどの先進国において人口が減少しています。「合計(特殊)出生率(女性が生涯に生む子供の数)」は約2.1人なければ人口は減少します。長期的に見れば、サブサハラ・アフリカも人口減少に転換するはずであり、人類全体の数が減少していくのは明らかのようです。興味深い本です。極論すれば、現状からみればサピエンスは消滅する可能性があると言っているのですから。

 

以上、8冊ともにそれぞれに現在の世界・日本の状況を捉えた興味深い新書・文庫でした。