[1441]「AIと私たち」についてーその3 AIに「人間ならでは」の仕事を奪われる? 

承前

 朝日新聞による社会学者・大澤真幸氏へのインタビュー「AIと私たち 労働と社会のゆくえ」についてここまで大澤氏に教わりながら私の解釈を書いてきました。しかしここから大澤さんの意見は誤っているのではないかという感想をもったので書いていきます。

 創造性や社交が必要な仕事、マニュアル化できない例外的な出来事への対処など「『人間に残される』とされてきた仕事こそ、生成AIは得意としているのです」と大澤氏に言われたインタビューアーはつぎのようの問います。

ーーならば私たちにできる仕事は何ですか。

大澤「結論から言うと、生成AIが普及したら、人の仕事が今よりもつまらなくなります。例を挙げましょう。学校の教員の勤務時間を短くするために、生徒向けの教材作りをチャットGPTに任せるというニュースがありました。これまでは先生たちが長年の経験を元に工夫をこらして作成したような教材が、瞬時にできる。では、そこで教師に残される仕事は何なのか。チャットGPTが作成した教材の印刷でしょうか」

インタビューアーは質問をつづけます。

ーー「人間ならでは」と思われていた仕事を失うことは、人に何をもたらしますか。

大澤「AIによって労働から解放され、資本主義による収奪から逃れて人間性が回復する、というわけにはいかないでしょう。••••••他者から必要とされず、承認もされない中で自分の生きがいを保てるかと言われたら、私も自信ありません。多くの労働者は生きる意味を失い、アイデンティティーの危機に陥るでしょう」

私の意見∶AIによって労働から解放されるのではありません。教材作り労働の労働手段となるものがいわば「紙とえんぴつとコピー機」からAIに代わったということです。教育労働者が技術化された労働手段であるチャットGPTを使って教材を作るのです。「長年の経験と工夫」はデータとしてAIに組み込まれ、そのAIを労働者が操作して教材を作成するのです。

 教師がAIにデータを入力すれば自動的に教材ができるということです。教師はその分だけ教材を作る労働時間は減るでしょう。教材作り労働の生産性は向上します。生産性が向上するということは教育労働者が同じ労働時間で以前より多くの剰余価値を生みだし、資本家に搾取される率が高くなるということです。搾取から逃れることはできません。

 また、教材作りは教育労働の中の一つの仕事です。教師はそれを使って生徒に教えなければなりません。

 教育労働者は商品=労働市場で学校資本家ないし自治体に自分の労働力を商品としてその価値通りに売り渡します。資本家は購入した労働力の使用価値を教育サービス生産過程で教材やホワイトボードなどの生産諸手段の使用価値とともに消費します。教育労働者は、教育サービス生産過程(生徒に教える過程)において教材の内容を労働対象である生徒に映像や言葉を通じて教えなければなりません。それが「人間ならでの仕事」かどうか、資本主義社会では労働者の労働の目的意識は資本家の目的に規定されたそれです。経済学的にいえば剰余価値を生みだすための労働なのです。

 教材作りに戻ると、教育労働者はチャットGPTを使って教材を作るわけであって「労働から解放される」のではありません。生産過程がAI化されても雇用されている限り、労働者は他者たる資本家から「必要」とされ、「承認」もされるのです。なぜなら労働は「価値の源泉」だからです。

 教育労働者が教材作りを自分の生きがいにしているかどうかはまた別のことでしょう。労働者は生産過程がAI化される将来ではなく、日々の疎外された労働の中で「アイデンティティーの危機」に陥っているのではないでしょうか。

以上私の意見

つづく