[1765]ハンガリーと欧州委員会

 G7では500億ドル(7·5兆円)をウクライナに融資することを大筋合意しましたが、EUではその返済にロシアの凍結資産の運用益をあてる案にハンガリーは合意していません。10月11日の日経新聞によれば、8日フランスのストラスブールの記者会見でハンガリーのオルバン首相は次のように語りました。

 「ウクライナは戦場で勝利できない。」さらなる犠牲を防ぐには停戦が必要だと明言し、ウクライナの反攻を支えるEUの戦略は「機能していない」。

 ハンガリーは24年下半期のEU議長国です。EUの外交安保政策にハンガリーが反対すれば政策実行はできません。オルバンは7月にトランプと会談しました。大統領選でトランプが勝てばウクライナ支援を打ち切る可能性もあり、その場合にオルバンはEUでの発言力が高まることを見越して凍結したロシア資産を融資の返済にあてることには反対姿勢を示しています。オルバンはEU執行部とロシア産エネルギー、難民問題への対応をめぐっても対立しています。

 フォンデアライエン欧州委員長は9日オルバンに続く演説で次のように演説しました。

 「ロシアの残虐行為を目にしてもなお、侵略者ではなく侵略された側を非難する人がいる。」「1956年のソ連ハンガリー侵攻を、ハンガリー人のせいだと責めるのだろうか」と。

 世界と日本の反対運動の内部にも似たような意見があります。東西対立に規定された戦争という見方を欠如させ、ウクライナ=善、ロシア=悪という構図をあてはめた「反戦平和」運動はポピュリストにして新自由主義者のゼレンスキーの支援運動になっています。

 このフォンデアライエンの問いにオルバンがどう答えたかわかりません。ハンガリー民族主義のオルバンはロシアプーチン政権を擁護する立場に立って停戦を提案しています。フォンデアライエンは欧米権力者の立場に立ってウクライナの後押しを行っています。東西対立の中でお互いに自国支配階級に有利になるようにウクライナ戦争に介入しているにすぎません。

 それにしてもフォンデアライエンがソ連ハンガリー侵攻を持ち出してオルバン批判を行ったことには驚きました。1956年ハンガリーの労働者学生の闘いはスターリン主義ソ連邦の衛星国における労働者階層の第二革命としての意義をもっています。クレムリンスターリン主義官僚にとってハンガリーのノルマ制労働撤廃などを掲げたストライキ闘争は自らの紐付き政権にたいする反政府運動であったがゆえに暴力的に弾圧しました。

 戦争を継続するウクライナゼレンスキー政権は、NATO加盟をめぐるロシアとの対立抗争をきっかけとしたロシアの侵攻に介入するアメリカの全面的支援を受けています。ロシアプーチン政権の侵略とアメリカに支えられたウクライナゼレンスキー政権の戦争と、1956年のハンガリア革命にたいするソ連の介入とハンガリア民衆の武装闘争とは全く質が違います。フォンデアライエンはオルバンにたいする非難の方便としてハンガリア事件を利用しているのです。

たちが悪いと思います。