投稿[7]医療現場から

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〈『新型コロナの分子疫学調査』という論文について〉

 4月27日、国立感染症研究所の病原体ゲノム解析センターが「新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査」という論文を発表した。新型コロナ発生初期から4月16日までのPCR陽性検体を分析している。

世界各地の研究所で登録されている4511例の新型コロナ感染症患者と日本で発生した562例の陽性患者を分析したところ、①日本各地の初期のクラスター(集団感染者)は、中国武漢から発したウイルス株を基点にしたもので、それはすでに消失している。②ダイヤモンドプリンセス号(クルーズ船)におけるコロナ陽性患者70例のウイルス株は、武漢株とは1塩基のみ変異していたが、これを基点とするウイルス株はその後検出されていない。③世界で3月初旬から感染爆発例は武漢株から変異したヨーロッパ株によるもので、それが3月中旬に日本にもちこまれ、感染拡大を引き起こし現在も続いている、という内容である。
この論文は、BMJという権威ある医学雑誌に投稿しただけ(受けつけの段階)で、正式に受け入れられているわけではない。日本で発症した562例の詳細は明らかではないし、2月から感染が拡大した北海道の検体は分析対象に入っていない(その理由は不明)。

 日本では、初期のクラスター発生(2月)(これを中国の第1波と称している)は、濃厚接触者をいち早く評価して抑えこむことができたが、3月中旬から、海外からの帰国者が日本にヨーロッパ株を持ち込み、行動制限が不十分だったために感染拡大(第2波)をもたらしたのだそうだ。この論文は、政府の感染対策(とくに尾見さんの言うクラスターつぶし)を行う事により初期の感染拡大を阻止しえたという見解を分子疫学のレベルで裏づけるという意義をもっている。余りにも〝でき過ぎ〟のようにも思ってしまう。

 新型コロナウイルスが変異しているのは確かであろう。ウイルスには、その構成からDNAウイルスとRNAウイルスに分類されるが、コロナウイルスはRNAウイルスに属する。RNAウイルスは変異をおこしやすい事が知られている。インフルエンザウイルスはその典型で毎年変異している(従って、インフルエンザワクチンは効きにくい)。新型コロナウイルスも変異をくり返していくだろう。潜伏期が長く、軽症者が急に悪化するたちの悪いウイルスであり、これを抑えこむことはかなり難しい。医療体制・検査体制の大胆な変革が問われているが、その道すじは見えてこない。

医療現場より