[637](寄稿)令和2年度のJCHO病院の収支が非常に良好であるのは、補助金のおかげ

ペンギンドクターより
その2

JCHO病院の収支(令和2年度)(ベッド数と補助金の調査を追加しました)

 夜中トイレに目覚めたとき、ふと気づいたことがあります。「令和2年度ならすでにCOVID‐19が広く拡大していたので、コロナ関連で補助金が供与されていたはずだ……。前年度と比較して補助金の額を財務諸表から抜き出せばJCHO病院のそれぞれが、コロナ対策の名目での補助金をどれだけ獲得したかがわかる。そのうえで実際にどれだけのコロナ患者を受け入れたかは後日検証すべきだが、それぞれの病院の方針あるいは急性期病床を中心とする病院の実力が推定できる」と。

 【注】病院の許可病床数が仮に200床でも、急性期病床と回復期病床と病院によってはナースの不足等から休眠病床がありますので、全許可病床だけではその病院のコロナ対応可能な病床はわかりません。急性期病床に限って調査する必要があります。以下の急性期病床は2019年の厚労省による「全国424病院の見直し」の表から引用しました。



 そこで、JCHO病院の急性期病床数とともに、総収益額と補助金と利益額を「JCHO情報公開」から調査引用しました。おかげでまたまた目がショボショボです。それに伴い、相当量の文章が改変されて前回報告の文章とは大きく異なることを前もってお伝えしておきます。


 尾身会長が理事長を務めるJCHO(地域医療機能推進機構)の実態はどうなっているか、情報公開された財務諸表より総収益額と補助金と利益額について引用します。これらは、JCHOのホームページを開き、その中の「情報公開」から誰でも見ることができます。補助金については、コロナの影響のない令和1年度(令和元(2019)年4月1日~令和2(2020)年3月31日)の一年間の補助金額は多くて数千万の額ですから、令和2年度の補助金はほぼすべてがコロナ対策であると言えるでしょう。つまり、コロナ病床を設置するという条件で給付されたはずの補助金です。

 一千万円未満は原則四捨五入しています。“JCHOが「城東病院」をコロナ専用病院”にしたわけは、赤字が続く中小病院であることから、コロナ禍に乗じたトカゲのしっぽ切りとも言えるでしょう。コロナパンデミックが終わったら、この「城東病院」は廃院になるか、民間に売却という運命をたどると私は予測します。つまり、厚労省天下り団体であるJCHOの幹部たちの「したたかさ」「悪賢さ」を感じます。

 令和2年度のJCHO病院の収支が非常に良好であるのは、補助金のおかげであり、補助金がゼロとすれば赤字の病院がほとんどとなります。他の大学病院や民間病院と同様に、受診控えや手術の延期などを考慮すればこれは当然であり、納得できます。つまり、JCHO病院の黒字病院の急増は、大部分が補助金の獲得があったからでした。民間病院と比べて極めて恵まれた病院群です。

 ただし、18年ほど前、全社連(有力な厚労省天下り団体)(建前としては全国社会保険協会連合会所属)の社会保険病院時代は、もっと多くの赤字病院がありました。その全社連と厚生団(全国9つの厚生年金病院及びいわゆる厚生年金会館や休暇センターなどを傘下に持っていた厚労省天下り団体)傘下の病院と船員保険病院を加えてできたのがJCHO病院57病院です。

 黒字化はJCHO本部の幹部の努力というより、それぞれの病院の努力でしょうが、多くの病院がコロナ以前にすでに黒字化してきていました。

 ところで、JCHOがぶちあげた「城東病院」をコロナ専用病院にすると言っても、せいぜい50床です。しかも中等症以下の患者さんしか収容できないでしょう。それでも実質はともかく宣伝効果はあるので、したたかだと言えます。

8月29日の朝日新聞朝刊には、こうあります。

●東京城東病院コロナ専用に 尾身氏理事長の機構

 地域医療機能推進機構(JCHO、尾身茂理事長)は28日、東京城東病院(江東区)をコロナ患者の専用病院にすると発表した。9月末をめどに約50床分の受け入れを可能にする。

 JCHOは24日時点で全国に57病院約1万4千病床をもち、このうち870床(約6%)をコロナ用に確保。都内では5病院の187床を確保している。

 実際はこの185床の内容が問題です。それは別の機会を述べます。

では、数字を羅列します。

JCHO病院の財務の抜粋(令和2年4月1日~令和3年3月31日)

 東京都内5病院 ●印は赤字病院です。▲は補助金をゼロとした場合の赤字病院です。補助金がなければ軒並み赤字となるのですから、補助金をもらう限りはコロナ患者を十分に受け入れる義務があります。

         
    急性期病床 収益  補助金 利益

●東京
高輪病院 202床 52.5億  7.4億 -1.2億

▲東京新宿
メディカル 423床 128.1億 16.8億 7.9億

▲東京山手
メディカル 398床 136.0億  7.2億  2.2億

●東京
城東病院 124床 31.4億  827万  -1.1億

▲東京蒲田医療
センター  230床  56.9億  15.3億 6.4億


 いかがですか。城東病院はもともと補助金をもらっていなかった病院であり、恐らく医師やナースの実態からコロナ対応不可能の病院であったことが分かります。城東病院に続いて次にコロナ専用病院にするとすれば、東京高輪病院となるはずです。理屈はあります。JCHO大病院をすべてコロナ専用とすると、入院患者の転院やコロナ以外の疾患に対する対応などで混乱を招く。また、黒字基調の病院は人気もあり多くのコロナ以外の患者さんが来院しているので、コロナ専用病院とするわけにはいかない。もともと赤字の病院は一応独立採算の建前はあるが、公的病院グループとしては、やむを得ず赤字病院に無理して援助をしている。この際、コロナ専用病院として皆様のお役に立ちたい……

 一般的に赤字病院というのは、高齢の医療従事者(事務員やナースなど)が多いために、人件費がかさんで赤字になっている場合が多い。あるいは、有能で人気のある医師がいないから収入が増えない。……。従ってつぶしてもあまり地域の損失にならない、という理屈もあります。しかし、同時にJCHO幹部すなわち、厚労省OBの元役人にとっては、そのような赤字病院を切り捨てていくことができれば、経営の苦労もせずに報酬がもらえる「ますますおいしい職場」となるが、そもそもそんな黒字病院ばかりのグループに天下りの元役人の存在が必要なのだろうか?と私は考えますが……。

 さて、そのような中小の赤字病院をコロナ専用にして、COVID‐19に対し、十分戦えるのか、という心配も出てきます。有能な若手の医療従事者でなければ、重症はもちろん中等症の急変には対応できないのではないでしょうか。現実的な対応とすれば、全国のJCHO病院から訓練された医師やナースを転属させる方法が考えられますが、COVID‐19全国拡大の今、それが可能かどうか疑問です。

 以上、私の結論はJCHOが50床のコロナ専用病院を作るのは、悪いことではないが、黒字基調で多くの補助金をもらっているJCHO大病院の病棟の一部をコロナ専用病棟に転換しなければこのコロナ危機は乗り切れないというものです。

 さらに、瀬戸東大病院長がマスコミに公表した「新型コロナウイルス以外の医療も重要なので、両立させることが重要だと菅総理に申し上げた」というコメントであるが、そんなことは日本中の誰もが思っていることであり、そんな当然のことだけが話されたとは思えない。1時間いったい何を話したのか、公表されなかった内容に興味がある。私が総理なら、「では、具体的に両立させるための瀬戸先生のアイデアを教えて下さい」と聞くけれども、今の総理にそれが可能だろうか?さらに、瀬戸病院長はその質問に応えることができるだろうか。

 この話はくどくなるので、ここでいったん終わりにします。


 以下は、私の個人的な興味もあり、財務諸表から全国のJCHO病院の令和2年度(令和2年4月1日~令和3年3月31日)の総収益額と補助金と利益額を示します。私は個人的にこういう数字がもともと好きなのです。そこから、いろいろ想像をたくましくする習性があります。結構、私自身の勤務医生活と関わりのある病院もあるからです。病院という名称は省略します。北から南です。東京の病院は上に記載しましたので、下記では省略です。●は赤字病院です。▲は補助金をゼロとした場合の赤字病院です。それぞれの病院の病床数も調べました。急性期用の病床数です。


    急性期病床 収益 補助金 利益

▲北海道 312床  93.7億 12.6億 11.3億

▲札幌北辰 276床 72.8億 10.1億 9.2億

●登別  57床  18.3億  4255万 -4300万

▲仙台   418床  87.5億  5億 3.8億

▲仙台南  160床  35.4億  4億 2.9億

▲秋田    167床 39.6億 4.7億 2.8億

▲二本松  160床 33.0億 2.1億 6500万

●うつのみや 147床 47.5億 3100万 -1.9億

群馬中央  333床 88.3億 1.4億   4.1億

▲さいたま北部 163床 52.6億 10.5億 2.8億

▲埼玉  395床 142.8億  25億  20.2億

▲千葉  154床 51.8億  6.2億   1.6億

船橋中央 384床 102.6億 17.1億 12.8億

▲横浜中央  200床 56.5億  5.3億 1.8億

▲横浜保土ヶ谷 241床 56.8億 6.7億 4.8億

▲相模野  212床 75.9億  2.7億 2.1億

●湯河原  不明 23.7億  913万 -3.1億

▲山梨  168床 41.8億 7600万  6600万

▲高岡ふしき 68床  21.3億 1.2億 5300万

金沢  195床  74.6億  9億   10.2億

▲福井勝山  158床 48.3億  3.7億 3.3億

若狭高浜  40床 18.5億  1.4億  4800万

▲可児
とうのう  162床  49.6億  2億  7700万

桜が丘  115床 30.7億 8762万  2.4億

▲三島総合  不明 41.0億  6971万  4600万

▲中京  663床 217.0億  14.9億  12.5億

四日市羽津  181床 76.1億  5.2億 2.9億

▲滋賀  197床 64.2億  4.4億   3600万

●京都
鞍馬口   225床 61.4億  6.5億  -4300万

▲大阪  565床  174.4億 12.2億 3.1億

●大阪
みなと   不明  56.6億 5174万 -9500万

▲星が丘  426床  110.9億 9.3億 2.7億

▲神戸中央 350床 98.0億 6.3億  2.5億

大和郡山   235床  44.5億 5.3億 1.6億

●玉造  111床 35.5億 7254万  -2.6億

▲下関  241床 71.7億 5.3億   3.3億

徳山中央   507床  200.8億 6.3億 10.8億

りつりん  120床  37.7億 2554万  6000万

宇和島  101床   32.4億 7555万   55万

高知西  106床  24.4億 7330万  8000万

九州  575床   203.1億 11.8億 14.8億

▲久留米総合 175床 51.0億  1.6億  390万

▲福岡
ゆたか   132床 34.1億 4.9億  9100万

▲佐賀中部 116床 38.1億 8070万  3600万

●松浦中央  54床 12.2億  375万 -3.1億

諫早総合  315床  100.1億  6.4億 8.0億

熊本総合  340床  121.1億  19億 21.1億

▲人吉  218床   84.0億  7.3億 6.8億

天草中央  149床   42.2億  3.3億 4.2億

●南海  204床   52.2億  2.4億 -2.6億

湯布院  不明   27.2億 1347万  4500万

宮崎江南  182床  57.2億  2.4億 3.9億


 いかがですか。補助金がなければ全国JCHO病院の大部分が軒並み赤字となります。しかし、これはコロナ以外の医療の差し控えからやむを得ない状況です。ただ民間病院の場合とは異なり補助金がもらえているので、黒字となり当然従業員の賞与等は通常通りとなっていると思います。そうであれば、率先してCOVID‐19対策に関与すべきです。そうでなければ、原資は税金ですから、過剰な補助金は返還するべきです。


ここで横道に逸れます。

JCHOの病院の利益すなわち余剰金はどこに存在しているのでしょうか。恐らくそれぞれの病院の取引先銀行の病院名義の預金通帳の中ではないか、と思います。恒常的に黒字の病院は膨大な額の余剰金が積み上がっていると思います。公的病院として法人税はなく補助金等も優先的に配布される傾向がありますから、コロナという非常事態には黒字かつ大病院こそが、現状のわずか6%程度のコロナ病棟ではなく、全病棟の1割以上2割程度までコロナ病棟とするべきだと思います。全国隈なく病院を有するJCHO地域医療機能推進機構病院ですから、コロナ感染が全国拡大をしている今こそ、日本国の存亡の危機を打開すべく、率先して活躍してほしいと思います。

 いずれにしろ、JCHO地域医療機能推進機構にしてもNHO国立病院機構にしても、さらに済生会病院グループにしても、いまこの危機に対応せずして、何が公的病院か、存在が問われています。

 なお、大学病院については、研究や教育という使命があるので、上記の公的病院と同列に考えているわけではありません。瀬戸東大病院長が、菅総理とその辺まで突っ込んだ話をしていればいいと思いますが、さてどうでしょうか?

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