[1179]ロシアのウクライナ侵攻1年

ウクライナ侵攻1年

 2023年2月24日の天声人語のはじまりに惹かれて読みました。しかし終わりまで読んで感じたのはこの日の天声人語は欧米•日本の政府のプロパガンダを信頼しすぎてはいないかということでした。

天声人語本文を引用して感想を言います。

ーー 

 旧ソ連フルシチョフ第一書記は1956年の党大会で、独裁者スターリンを名指しで批判した。専横ぶりを糾弾する演説に聴衆から声があがった。「その時あなたは何をしていたのですか」▼フルシチョフがにらんだ。「いま発言したのは誰か。挙手していただきたい」。誰もいない。フルシチョフは言った。「いまのあなたと同じように、私も黙っていた」。川崎浹(とおる)著『ロシアのユーモア』が伝える小話だ▼

ーー

 これは面白いです。今の日本のメディアを風刺しているようにも思えたからです。ところが違った。つづきを引用します。

ーー

 ▼自由のない社会では、為政者の言動に沈黙で応じるばかりか、称賛の拍手を送らねば身の危うい時もある。「戦争を始めたのは(西側の)彼らである。戯言(たわごと)としか思えないプーチン大統領の年次教書演説を神妙に聴くロシアの人々の映像を見た。その心中には何がよぎったのだろう▼

ーー

 プーチンの言うことを戯言(たわごと)といって済ませてはいけないと思います。戦争を止めるために、なお続く戦争の当事者の側の論理と倫理を把握しなければなりません。そのためにはプーチンの主張を肯定するかどうかにかかわりなくありのままを確認すべきです。

 プーチン演説はあくまでもプーチンの意見です。意見というのはある現実の出来事をそれを見る人の価値観のフィルターを通して判断された命題が言語表現されたものです。私はプーチンが語る「現実」の物質的基礎を推論してつかみとり考えなければなりません。あるいは「語られた現実」の基礎となっている出来事そのものと対決しなければなりません。

 プーチンは2月21日の演説で次のように言いました。

 「ドンバスは2014年から戦い、自分たちの土地に住み、母国語で話す権利を主張し、封鎖と止まない砲撃、ウクライナ政府からの露骨な憎しみという条件の下でも降伏せず、ロシアが助けに来てくれるのを信じて待った。

 一方、あなた方もよくご存じのように、我々はこの問題を平和的手段で解決するために、本当にできる限りのことを行い、このきわめて困難な紛争を平和的に解決するため、忍耐強く協議を行った。

 しかし、我々の背後ではまったく別のシナリオが用意されていた。

 今、我々は、西側の指導者たちがドンバスの平和を目指すとした約束が口実であり、残酷な嘘であったことを理解した。

彼らは時間を引き延ばし、形式主義を取り、政治的な殺害や気に入らない者に対するウクライナ政権の迫害、信者たちに対する侮辱的行為に目をつぶり、ドンバスにおけるウクライナのネオナチのテロ行為をますます強く奨励した。

 民族主義者の大隊の将校らは西側の軍事アカデミーや学校で訓練を受け、武器も供給された。

 特に強調したいことは、特殊軍事作戦の開始前から、キエフと西側諸国との間では防空システム、戦闘機、その他の重装備のウクライナへの供給交渉が行われていたことだ。キエフ政権が核兵器を獲得しようと奮闘していたではないか。これを彼らは公言していたではないか。」

 「そして2021年12月、我々はついに米国とNATOに対し、安全保障条約の草案を正式に送った。だが、我々にとって最も重要な原則的な立場はすべて、事実上、真っ向から拒否された。このとき、彼らが攻撃的な計画を実行に移すゴーサインを出し、それを止めるつもりはないことが最終的に明らかになった。

 脅威は日に日に増していた。入ってくる情報から、2022年2月までにドンバスで再び流血の懲罰的な行動を起こす準備が万端に整えられていることは疑いようがなかった。ドンバスにキエフ政権は2014年の時点ですでに大砲、戦車、飛行機を投入していたではないか。

 ドネツクに、またドネツクだけでなく他の都市にも空爆が行われた時の様子を我々は皆よく覚えている。2015年にも彼らは再びドンバスへの直接攻撃を試み、しかも、封鎖、砲撃、民間人に対するテロを続けた。こうしたすべては、国連安全保障理事会が採択した関連文書や決議に完全に反している。にもかかわらず、皆が何も起きていないふりをしていた。

 繰り返したい。戦争を始めたのは彼らだ。我々はそれを止めるために武力を行使し、今後もこれを行使する。」

 

 プーチンは年次教書演説で2022年2月24日のウクライナへの越境軍事侵略を正当化したと思います。いいわけをしているとも感じます。けれども、西側の指導者とゼレンスキーが戦争準備をしていたということは戯言だとは言えないと思います。私は別のニュースやドキュメンタリーでその一端を聞きました。ゼレンスキーがNATOに加盟しようとしていたことは事実です。

 なぜプーチンウクライナ侵攻に踏み出したのかについて言い分を聞いて考えなければいけないと思います。それはプーチンの侵略を免罪することではなく、戦争に反対する立場に立って戦争の原因を明らかにすることになるからです。プーチンが言うこと、そしてメディアで伝えられたことが、事実か非事実か、推測にもとづく「事実」か私が自分の分析力、判断力、綜合力などを総動員して考えなければなりません。

 さらに天声人語プーチンに抗議するという形をとって、西側の目から戦争にヒューマニスティックに感傷的にアプローチしています。

ーー

ウクライナ侵攻から今日で1年。ゼレンスキー政権を転覆させるというプーチン氏のもくろみは失敗し、主戦場はウクライナ東部や南部に移った。イジューム、マリウポリといった美しい響きの街の名が、悲しいニュースと共に記憶に刻まれる。そんな1年でもあった▼進軍エリアを色分けした地図を見るうちに、いつのまにかこの戦争を高みから眺めようとしている自分に気づき、恥じ入ることがある。違う。地図に描かれた小さな点の一つひとつに、多くの命の命の営みがあるのだ▼人々が生死のふるいにかけられ、別離の涙が流されている。忘れてはならない。あなたは何をしているのですかーー。プーチン氏に抗議の声を上げ続けねば。

ーー

以上2023•2•24 天声人語

 このようにウクライナで起きている事態を感情をこめて描き、プーチンとの対決を読者に促すと、現実にはNATOとゼレンスキー政権の軍事力に期待することになります。

 ウクライナの多くの労働者は労働組合員として、ロシアの侵略にたいして様々の形態でレジスタンスを展開しながらゼレンスキー政権の労働法改悪(解雇自由化)に反対して闘っています。私は彼らと連帯し日本の地でウクライナ戦争に反対する闘いを労働組合で地道に進めています。

 反戦の闘いを、ゼレンスキー政権とその背後で自国の国益を守るために介入する米欧日政府を尻押しする運動に解消してはだめです。