[1484]欧州賃上げストライキの波

 インフレ下のヨーロッパで労働組合は賃上げ闘争をストライキでたたかっています。日本の労働組合・連合は政労使のトップ会議で政府に賃上げをお願いする「闘い」を行っています。

 芳野会長は1月5日に都内のホテルで開かれた新年会のあいさつで、春闘に向けて「中小企業の賃上げを実現しなくてはならない」と強調し、原資確保のため、適正な価格転嫁や価格交渉ができる環境整備が必要だと語りました。労働組合が賃上げ原資の確保のために物価値上げを政府に要求するということをやってはダメです。それは経営者が政府に頼むことです。労働組合が経営者の事情を忖度していてはたたかえません。

 今年は戦後世界史の転回点をなす年になるでしょう。労働者階級の闘いが問われます。

 

日経新聞より

欧州各国で賃上げストライキ

インフレ圧力を欧州中銀警戒

2024年1月5日 

 

欧州各国で待遇改善を求める労働者のストライキが長期化する兆しが出ている。ドイツでは鉄道職員のストで交通が混乱する恐れがあり、フランスでも年末に相次いだ。賃上げの拡大でインフレ圧力が再び高まる可能性があり、欧州中央銀行(ECB)は労使交渉の行方を注視する。

ストの影響で運行停止した「ユーロスター」(昨年12月、パリ)=ロイター

ドイツ鉄道の運転士などが参加する独機関士労働組合(GDL)は1月8日にも大規模ストに踏み切る構えだ。労働時間を週38時間から35時間に短縮し、インフレ手当として3000ユーロ(約47万円)の支給を求めている。

GDL内部では「無制限スト」を求める強硬論もあるが、最大5日程度になりそうだ。同組合によると組合員の97%は労働争議の長期化に賛成している。

 

GDLは1867年創設のドイツ最古の組合とされ、交渉が決裂してストを決行すれば交通の混乱は避けられない見通しだ。2023年3月には過去30年間で最大規模のストがドイツ全土の公共交通機関で広がり、高速鉄道「ICE」などが運行停止になった。

隣国フランスでも混乱は広がる。

クリスマス休暇を控えた23年12月21日午後、英国と大陸欧州をつなぐ高速鉄道ユーロスター」が突如運行を停止した。同鉄道が通る英仏間の海峡トンネルはフランス企業が運営する。従業員が賞与額が不満だとしてストライキを決行し、ロンドンやパリ、ブリュッセル発の30便が運休した。

 

仏紙ル・パリジャンによると、ボーヌ仏交通担当相が労使交渉に介入し、21日夜にストが終了した。当初、経営側が提示した3倍にあたる3000ユーロの賞与支給が決まったという。

欧州鉄鋼大手アルセロール・ミタルが仏北部ダンケルクで操業する製鉄所では、12月上旬から賃上げを求める従業員によるストで生産に支障が生じた。仏AFP通信によると一部の従業員は14日に3.7%の賃上げを受け入れた。

英国では35%の賃金改善を求める若手医師が12月20日から23日にかけてストに踏み切った。2024年1月3日から9日にかけてもストを実施する計画だ。

南西部グロスターシャー州では、医師のスト参加で緊急医療などの対応が一時停止になるなど医療現場の混乱にもつながっている。

ロシアによるウクライナ侵攻で、欧州各国は急激なインフレに見舞われた。特にエネルギーや食品など生活に欠かせない品目が高騰し、賃上げなどの待遇改善を求めるストが23年にかけて一気に広がった。24年も続いて長期化する可能性がある。

ドイツやフランスなどユーロ圏の物価上昇率は22年10月につけた10.6%をピークに反転し、直近23年11月は2.4%まで大幅に鈍化してきた。ただ高騰していたエネルギー価格の下落が大きく、食品などは6.9%、サービスが4.0%上昇するなど特定分野ではインフレが収まっていない。

今後も賃上げの動きが広がれば、個人消費の持ち直しを通じてインフレ圧力になる。ECBのまとめによると、ユーロ圏の労使が交渉で妥結した賃金は7~9月期に前年同期比4.7%上昇した。伸び率は5四半期連続で拡大し、米金融危機後で最大だ。

ECBはインフレ再加速への警戒を緩めず、当面は物価を左右する賃上げの動きを24年春にかけて見極める構えだ。ラガルド総裁は「賃金が想定以上に高まった場合、物価上昇率は予想より高まる可能性がある」との見方を示してきた。

市場では24年春に利下げを始めるとの観測が浮上するが、ストの長期化でECBのシナリオが修正を迫られる可能性がある。オランダ中銀のクノット総裁は独紙のインタビューで、24年上半期の利下げ開始の可能性は「かなり低い」と指摘。市場で高まる早期利下げ観測をけん制した。

(ベルリン=南毅郎、パリ=北松円香、ロンドン=湯前宗太郎)

 

 こんにちの日本では賃上げや人員削減反対闘争がストライキ闘争形態でたたかわれるのは稀です。

 昨年のそごう・西武労組のストライキは連合指導部によって孤立させられました。連合はストライキについて「憲法で認められた労働者の権利であり、重要な手段の一つ」というだけで、個別の労使交渉に本部としての取り組みはしませんでした。芳野友子会長は「交渉の戦術は組合や産別(産業別労組)の判断であり、連合としてはそれを見届けていくことになる」と言い指導放棄。

 労働組合の慣行として連合指導部が産別指導部の頭越しに加盟単組を指導できないということはわかっています。が、冷えた日本労働運動の中でストライキを実施するそごう・西武労組の組合員を連合指導部が激励行動することを非難するものはいません。

 会長は、2023年9月3日の会見でストについて、「多くの国民に労働組合としての権利があるということが周知された」と言っています。こういうことを平気で言う指導部を下から批判していかなければ日本労働運動の将来はありません。