ワシントン・ポストによる23年12月の世論調査では、前回大統領選で広範な不正投票があったという確かな証拠があると答えた人が33%いました。
トランプ支持者は地方在住の白人男性、非大卒のブルーカラーだというイメージが広められていますが、朝日新聞によれば、高学歴の有権者の中にも熱狂的な支持者がいるといいます。アイオワ州第2の都市シーダーラピッズで100%トランプ支持だという人の話が紹介されています。
庭付き一軒家に住み、自分たちを典型的な米国のミドルクラスだというコンピューター会社の経営者は次のように言いました。「トランプは勝っていた」といえばABCやCNNなどのメディアが「陰謀論」だと言うことは理解しているが、自分たちは大卒で批判的思考ができる、よく考えて物事の正しさを見極めていると。
取材記者は、トランプ支持者の言葉の端々に既存の政治家やエリート層に強い不満を持っていると感じるといいます。
退役軍人のケビン(67)は言います。「トランプは政治家ではない。民主党とメディアとも戦い、共和党とさえ戦って、解決策を示してくれる」
民主党員にも聞く
記者は北部のチャールズシティーで下院議員を努めてきた49歳の民主党、共和党の男性2人に会って話を聞きました。
共和党のバーンズは言います。「政党を超えて協力できた、最後の世代かもしれない」
2人はトランプの影響は地方政治にも及んでいると懸念して言います。
「トランプ流の『衝撃と畏怖』を使った政治手法が、州議会から市議会、教育委員会 に至るまで、徐々に波及してきた。他者を尊重しなくても構わないという姿勢を、地方の政治家もまねしている」と共和党のバーンズが言い、民主党のブリチャードが「そう。トランプは政治を深く二極化させてしまった」とうなずきながら言ったそうです。
超党派で協力する姿勢は反発され、バーンズは共和党内でRINO(名ばかり党員)と何度言われたことかと嘆きます。
二人とも、二極化して極端な意見の持ち主が候補になるというのは「予備選」というシステムに問題があると言っています。
けれどもこの記事の読者である私は、二極化は選挙制度のせいだけではないと思います。貧富の格差が拡大し労働者の貧窮化が進んでいることが根底にあるのだと思います。その打開の「夢」をトランプに求めているのでしょう。アメリカの政治・経済の行き詰まりが露呈している証左だと思います。
民主党のブリチャードは朝日新聞の記者を、ラストベルトの典型をなす・70年代にトラクター製造で栄えた工場跡地に案内し言いました。
「この地域の人たちは、経済が落ち込むにつれ、政治に失望していった。一時はオバマに希望を見いだした人もいた。でもトランプは政治のアウトサイダーとして、全く違う形で白人労働者たちに『米国を再び偉大にする』と語りかけて、彼らの心をつかんだ。」
かつての民主党は労働者に支えられた「労働者の党」だったが、今や名門大学に通う富裕な学生や都市部のエリート層の党だというイメージが広がっているという。
今の民主党は人種やジェンダー、性的少数者に焦点を当て、多様なアイデンティティー集団の立場からみた正義を追求しようとする政治を重視しているとブリチャードは言います。
そして彼は言います。多様化する正義、たとえばLGBTの権利を優先するだけではここラストベルトの労働者の支持は得られない、有権者がトランプに失望するときがやがてくる、そのとき、民主党は労働者たちに正面から向き合うことだと。
地方のまじめな民主党の活動家は、地元で労働者の困窮を打開する方策を考え提起しなければならないと思っているのでしょう。
それからあと、1月15日にアイオワ州共和党の予備選でトランプが大勝しました。
既成のアメリカ政治への絶望がトランプ支持に向かっています。ブリチャードのような政治感覚を持った民主党員は、「古き良き時代」のアメリカの象徴だと思います。それも今は昔。今や減衰したアメリカのパワーに一時の賦活剤を入れようとしているのがトランプです。
1991年のソ連邦自己崩壊後、資本主義勝利の凱歌を上げたアメリカの企業が、安い労働力とマーケットを求めて海外に出ていき国内産業の空洞化が生みだされました。これは資本主義の必然といわなければなりません。破綻ののちのトランプ現象です。政策的に別の道を行けばなんとかなるという性質の危機ではありません。
今私たちは二つの戦争の中で資本主義社会の歴史の転回点に立っています。この観点からアメリカ大統領選をとらえることが大切だと思います。