広がる“中国化”その3です。NHKスペシャルをみて一帯一路戦略が実現されるリアリな現実がわかりました。
<進められる農村の“中国化”>
カンボジアを中国の食料庫とするプロジェクトも進んでいます。 中国企業が300ヘクタールのバナナ農園を経営しています。ここでは99年にわたり借り上げる契約が、カンボジア政府と結ばれています。5年前からバナナを生産し、いま年間2万トンを中国に輸出している。急速な経済成長に伴い、食糧輸入国となった中国は一帯一路を通じた食糧安全保障の確立が急務となっています。
カンボジア・バナナ・アグリカルチャー 高冠華社長はいいます。「中国がバナナを必要としているから、カンボジアに来ました。熱帯フルーツを求める国内需要と巨大な市場があるのです」
この農園では、近隣地区に暮らす貧困層のカンボジア人500人が雇用されています。
賃金労働者にたいする労務管理
勤務管理は中国本土で広く普及している指紋認証システムがつかわれており、労務管理が厳しく行われています。部下がバナナに傷をつけた原因を問われたカンボジア人リーダーが「けさ収穫のときに道が滑ったと言っています」と答えると中国人社員は「言い訳は聞きたくありません。バナナの収穫は気を抜いたらだめですよ」と強く叱責します。インタビューを受けた中国人幹部社員は「中国人は仕事を自分のこととして考える責任感がある。しかしカンボジア人には責任感がない」といいます。
(放送を視聴していた私は思わず「低賃金で過酷な労働させられていればミスはでる。当り前じゃないか」とつぶやきましたが・・・)
中国人幹部社員は「彼らは40年に及ぶ改革開放のプロセスを経験していない。だからスピードも理念も意識も我々についてこられない」といいます。
「外国に来ると祖国の強さを身にしみて感じます」という会社の最高幹部の1人呉誠(ご・せい)さんは率先してカンボジア人従業員の指導役を担っている。彼は「私はよく叱るが、私の気持ちをわかってくれよ。チームみんなの力を結集できれば成功できる。発展できるはずだ。我々はバナナ業界のファーウェイになるんだ」とカメラに向かっていいました。呉は中国共産党の党員で、毎日見ているスマートフォンのアプリがあるという。「貧しい農村の解放を理念とした共産党」の習近平国家主席の思想を学べる「学習強国」。アプリのナレーターは「習近平は、上昇志向を保つためのポジティブなエネルギーを刺激する必要性を論じています。社会主義の核心的価値、優れた中国の伝統文化が、人々の心をまとめ、力を結集する強大な力であることを、事実が十分に証明しています」といいます。
呉は上昇志向を勧める習近平の教えに忠実に、バナナ業界のファーウェイになると堂々といえるわけです。呉は、従業員の意識改革に欠かせないものがあるという。「共産党の思想教育は役に立ちます。しかし思想教育には、物質的基盤も伴わなくてはなりません。ここで働いて稼げば、バイクを買ったり、家を建てることができます。名誉こそが心に響く。そこから始めるのです」
共産党の「思想教育は役に立つ、しかし思想教育には物質的基盤も伴わなくてはなりません」という物質的基盤とはカネと名誉のことです。この思想こそが習近平の「中国の特色ある社会主義思想」なのです。
農園では、カンボジアの平均月収を上回る賃金を支給しているといいます。この日は、月に2回の給料日だ。これまで自給自足に近い暮らしをしていた従業員に、現金が手渡されました。カンボジア人作業員は「62万リエル(約1万7千円)もらった。米とお惣菜を買うよ」と映像ではうれしそうでした。給料をもらった途端に借金を取り立てられる従業員もいますが、現金収入は人々の消費欲をかき立てていました。若者たちが求めるのは、中国製のスマートフォン。月々の利用料を払うためにも、働かなければならないのです。
呉はいいます。「仕事で努力すれば金を稼げると思わせる。そうすれば我々も彼らを管理しやすくなる。」
劣悪な「社宅」
農園の一角に、従業員やその家族の居住エリアがあった。中国企業が用意した急ごしらえの住宅に暮らしている。「ここに一番欲しいものはトイレです。もっと便利に暮らせるようにしてほしい」と住民はいいます。従業員は、住宅環境の改善を求めているが、会社側の対応は遅れているという。この農園では、今後3年で作付面積を2倍に拡大し、雇用も1000人に増やそうと計画している。
私の感想∶
中国政府は安い土地を借り上げ、資本家が現地の安い労働力を買ってバナナ農園で労働力を他の生産諸手段とともに消費してバナナを生産しています。この労働過程は価値増殖過程と統一された資本制的労働過程であり、労働は搾取され剰余価値は資本家に取得されています。生産過程における労働者の労働は資本家のための労働であり疎外された労働です。厳しい労務管理が行われている資本主義の生産過程そのものです。
現地で資本の代理人として働く呉氏は共産党員ですが、マルクスのいう社会主義社会をつくろうとは全く思っていないようです。大資本家を夢見るフロンティアにすぎません。これを見ると習近平が教育している「中国の新しい社会主義」とはアメリカに負けない中国の資本主義という意味です。一帯一路戦略とは中国資本主義をアメリカに対抗して世界に広げる国家戦略のことだといえます。
カンボジア・バナナ・アグリカルチャー中国人社員は次のようにいいます。カンボジア人労働者は「40年に及ぶ改革開放のプロセスを経験していない。だからスピードも理念も意識も我々についてこられない」「外国に来ると祖国の強さを身にしみて感じます」といいます。
毛沢東式社会主義建設の失敗を資本主義化によってのりきる方向に転回した鄧小平以後の指導者は改革開放政策をすすめました。この過程で農民は都市に集められ農民工として低賃金で長時間労働を強制されてきました。共産党専制支配体制のもとで労働者の闘いはおさえこまれてきた歴史が積み重なっています。その意味で「祖国」は「強い」のです。それを良しとする資本家と資本家を夢見る労働者が「一帯一路戦略」にのって世界に進出しているのです。
劣悪な労働条件を強制されている現地の労働者の闘いがはじまるでしょう。