[1452](寄稿)医療あれこれ(その97)ー1 人口減少について1

ペンギンドクターから新書、文庫本の紹介とコメントがありました。

その1

 

大西広『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』

 大西広『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』(講談社+α新書、2023年9月20日第1刷)について述べますが、(編集者註∶次回紹介します)その前に私の手元にある「人口減少」と関連する新書・文庫の一部を発行順に並べそれぞれの本の裏表紙や帯のコピー(宣伝文)を列挙します。コピーはその本の内容を現わしていると考えるからです。続いて「◍」で私のコメントを記します。

 

 まず著者の略歴を記します。4冊が山田昌弘の著書です。

■藤正巌:1964年東京大学医学部卒。同先端科学技術センター、同医学部、埼玉大学各教授を経て97年より政策研究院教授。科学技術論、医用工学。

■古川俊之:1955年、大阪大学医学部卒。東大医学部、同先端科学技術センター各教授、国立大阪病院院長を経て98年より政策研究院客員教授。生命機械論。

山田昌弘:1957年東京都生まれ。1981年東京大学文学部卒。1986年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。

橋本健二:1959年石川県生まれ。東京大学教育学部卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。現在、早稲田大学人間科学学術院教授(社会学)。専門は理論社会学。

 

▼藤正巌・古川俊之『ウェルカム・人口減少社会』(文春新書、平成12(2000)年10月20日第1刷発行)

 

 あと数年で世界一の高齢者大国になる日本。少子化が社会を支える人たちの減少を招くのではと恐れるあまり、老後に不安を感じる人が多いのも確かだ。しかし、生物学的にみれば「少子」は「少死」の結果であって、人類という種の宿命なのだ。すでにヨーロッパが経験しているように、セーフティーネットと呼ばれる生存の基礎条件さえしっかりしていれば、社会の高齢化を恐れることはない。――これは成熟した社会を作り出すための設計仕様書である。

 

◍人口減少というのは著者が述べているようにすでにわかっていたことです。著者は楽観的に考えています。労働力人口も2025年には定年が65歳になっているだろうから、人手不足は問題にならないと述べていて残念ながら予測は外れています。しかし、2000年の時点で人口減少社会をポジティブに捉えて「成熟日本」を考えた著者の試みは評価できると思いました。

 

山田昌弘希望格差社会「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』(ちくま文庫、2007年3月10日第1刷発行、ただし原文は2004年11月9日筑摩書房より刊行)

 

 フリーター、ニート、使い捨ての労働者たち――。職業・家庭・教育のすべてが不安定化しているリスク社会日本で、勝ち組と負け組の格差は救いようなく拡大し、「努力したところで報われない」と感じた人々から希望が消滅していく。将来に希望が持てる人と将来に絶望している人が分裂する「希望格差社会」を克明に描き出し、「格差社会」論の火付け役となった話題書、待望の文庫化。

 

◍著者は二極化した社会の現状を述べた後、最終章で「いま何ができるのか、すべきなのか」を述べています。それは「社会改革の必要性」「個人的対処の限界」「公共的取り組みの再建」です。当然ながら「自己責任」などという「勝ち組」の論理では社会の再建は出来ません。

 

山田昌弘『少子社会日本――もうひとつの格差のゆくえ』(岩波新書、2007年4月20日第1刷発行)

 

 少子化のスピードが加速している。この30年で出生数は半減、未婚率は急上昇し、日本は人口減少社会に突入した。なぜここまで深刻化したのか。その決定的な理由を探るために、若者の不安定な職業状況、様々な格差の拡大、パラサイト・シングル現象の進行、恋愛・結婚観の変容などを分析。とるべき少子化対策は何かを考える。

 

◍著者も最終章・第8章「少子化対策は可能か」で「少子化対策の課題は何か」「少子化を反転させることは可能か」「希望格差対策としての少子化対策」とわけて取り上げています。その中で日本における少子化が進んだ要因を次のようにまとめています。

……一つは、経済的要因であり、①結婚や子育てに期待する生活水準が上昇して高止まりしていること、その反面で、②若者が稼ぎ出せると予想する収入水準が低下していることである。もう一つは、男女交際に関する社会的要因であり、③結婚しなくても男女交際を深めることが可能になったという意識変化、および、④魅力の格差が拡大していることである。……

 さらに「希望格差対策としての少子化対策」として、①全若者に、希望がもてる職につけ、将来も安定収入が得られる見通しを②どんな経済状況の親の元に生まれても、一定水準の教育が受けられる保証を③格差社会に対応した男女共同参画を④若者にコミュニケーション力をつける機会を⑤若者が希望がもてる環境を用意することが根本的な少子化対策、とあります。

 まことにごもっともではありますが、どうして実現するか、人間とは言えない「株式会社」に膨大な「利潤」が積み上がっている今の資本主義社会の是非に踏み込んだ議論が必要のように思いました。

 

山田昌弘『家族難民 中流下流――二極化する日本人の老後』(朝日文庫、2016年2月28日第1刷発行、ただし本書は2014年1月朝日新聞出版より刊行された『「家族」難民』を改題し加筆修正した)

 

 万が一、家族に頼れなくなった時、私たちはどうすればいいのか? 今の社会保障では、年間20万人以上が孤立死する可能性がある。社会の基盤を揺さぶるレベルにまで未婚化・単身化が進んだ日本の未来に警鐘をならし、家族中心の社会制度が生む弊害と対策を明らかにする。

 

◍第6章「家族難民」をつくらないために社会でできること、から項目を引用します。ここには「シングル化対策の二つの方向性」「従来型にこだわらない婚活支援の広がり」「多様なカップルが生まれやすい環境整備」の項目があります。特に「個人単位の社会保障制度へ」①年金制度②健康保険③住宅政策④雇用対策⑤養子・里子制度⑥社会参加の仕組み、が具体的に述べられています。

 故安倍総理など保守派、今いろいろ騒がせている杉田水脈衆議院議員などの背景に存在する「旧統一教会」など、特に「日本会議」が主張する戦前の家族制度への回帰が非現実的であることがよくわかります。要は現実を直視することです。

 私の友人でもある二人の女性医師は従姉妹同士ですが、二人で同居しています。一人は離婚してシングルマザー(息子は独立)、一人は未婚です。将来を考えてもう随分前から同居です。二人とも確か現在60歳代後半でしょう。賢明な選択です。

 

橋本健二『新・日本の階級社会』(講談社現代新書、2018年1月20日第1刷発行)

もはや「格差」ではなく「階級」

 固定化し、次世代へ「継承」される負の連鎖。900万人を超える新しい下層階級が誕生。日本社会未曽有の危機。

 豊かな人はより豊かに、貧しい人はより貧しく――「日本型階級社会」の実態!!! 日本は「格差社会」などという生ぬるい状態にはない! すでに「階級社会」になっている

◎ひとり親世帯の半数(50.8%)が貧困層の社会。

◎男性の3割が経済的理由から結婚できない社会。

◎中間層は「上昇」できず、子どもは下の階級に転落する社会。

◎1980年前後から始まった「格差拡大」は10年近くも放置され、「一億総中流」はもはや遠い昔。

◎SSM調査(社会階層と社会移動全国調査)データと、2016年首都圏調査データを中心に、現代日本の恐るべき実情が明らかに。

◍帯にあるコピーで十分説得力はあり、コメントなしです。

 

山田昌弘『新型格差社会』(朝日新書、2021年4月30日第1刷発行)

 

日本が階級社会に陥る前に、格差を直視することが肝要だ――。

 広がる格差から目を逸らし続けていた平成期。コロナ禍が可視化させたその実態は、もはや不可逆的なものなのか? 格差是正の実践こそが、人生100年時代の世界共通語となる。<家族格差><教育格差><仕事格差><地域格差><消費格差>、これら五大格差を直視し、統計やフィールドワークを分析しながら、「格差を認め、それを踏まえた新しい形」を省察する緊急提言書。家族社会学&感情社会学の第一人者による令和日本のリアルがここに!

 

「格差は現象? いいえ、人災です」

 家族社会学の第一人者による書き下ろし!

 日本では小学4年生で人生が決まってしまう?

 

◍著者は「おわりに」において、次のように述べています。

 ……平成時代が、「格差は広がっていくのだけれども、それを認めることができなかった時代」とするならば、令和は、「格差の存在を認め、それを踏まえた上で新しい形の社会をみんなで作っていく時代」になればよい、いや、するべきだと思っています。「みんなで」と強調したのは、これらの格差を埋める試みは、「自助努力」ではできないからです。平成の時代は、さまざまな格差が広がる中で、「自己責任」が強調され、格差が放置されるきらいがありました。コロナ禍は、「自己責任」の限界を明らかにしたのだと思います。……

 その通り!と言っていいでしょう。さてどうするか?

つづく