[1459]大学法人法改悪と岡潔

12日朝日新聞「折々のことば」より

 

大学そのものが基本的には学生の組合であった

チャールズ・H・ハスキン

 

 「折々のことば」の筆者鷲田清一氏は次のように言います。

「···最初期の大学はボローニャでもパリでも、学生もしくは教師の組合として発足したと、米国の中世史家はいう。大学は権威や権力の支配が及ばない所で知的探究をなす自治団体であり、この精神と組織は現代まで共通の『母石』としてひきつがれてきたと。『大学の起源』から。」

以上「折々のことば」より

 その伝統が日本の大学でいま壊されようとしています。今日にも参院を通過しそうな国立大学法人法改訂案には、政府が国立大学の管理運営にたいする関与を強めるために学内に「運営方針会議」をつくることが盛り込まれています。

 大学に管理運営の合議体の設置を義務づけ、政府が決めた外部委員を合議体に入れなければならないとされています。これまで学長と役員会が担ってきた大学の予算決算、6年間の中期計画など管理運営にかかわる方針に財界や政府の意向が外部委員を通じて媒介的に反映されることになります。従来は文科省の認可が必要だった土地の貸付けにも触れ、届け出だけで済むように緩和しています。教育研究の予算が削減され国立大学は予算確保に競争を強いられています。そこで大学が自分で稼げるように規制を緩くするということです。

 合議体設置を義務づけることに大学内外から反対の声が上がっています。反対署名は4万を超えています。

 5日に反対集会が開かれ一橋大学の大学院生の小島雅史さんは「稼げる大学という方向性は、稼げる研究分野を選択しろという意味にほかならない」と述べ、学問の自由を侵害するおそれがあると訴えました。

 産学協同の軍事研究はすでにはじめられていますがそれに拍車がかかります。

 稼げる大学になるためにはカネにならない教育研究は疎まれます。経済効果を生まない科学には予算がつかず、哲学、文学は廃れ全体として知力、考える力は低下します。

 60年まえに数学者•岡潔小林秀雄との対談『人間の建設』の中で語ったことを思い出します。

「世界の知力が低下すると暗黒時代になる。暗黒時代になると、物の本当のよさがわからなくなる。真善美を問題にしようとしてもできないから、すぐ実社会と結びつけて考える。それしかできないから、それをするようになる。それが功利主義だと思います。西洋の歴史だって、ローマ時代は明らかに暗黒時代であって、あの時の思想は功利主義だったと思います。人は政治を゙重んじ、軍事を゙重んじ、土木を求める。」

 現代資本主義は危機を乗り切るために「功利主義」を純化しています。